「トイレのだんな」 僕につけるくすり詩(うた) すぎむらとものり

トイレのだんな

すぎむらとものり

まっ 水に流すことだな。

トイレのだんなはそう言った。

だしたもんをジロジロ見たって

起きちまったことをイジくったって

そりゃあ お前さんの勝手。

好きにすればいい。

でもな あるていどのところで水に流すもんだよ。

お前さんのもんでもな。

誰かさんのもんでもな。

どっちの責任だってな。

流さなければくさいからな。

 

人んちのトイレをのぞくわけにもいかないから

お前さん知らないかもしれないが

あんまりみんなかわらねえぞ。

あちらさんもこちらさんもどちらさんも

みんなそれぞれまちがって

うんうんうなってしゃがみこんでる。

お前さんだけが特別なんてことは

残念ながらひとつもねえなあ。

 

自分を許すことがみーんな苦手なのさ。

誰かを許すことがみーんな苦手なのさ。

そいつをいま練習しているってわけさ。

おとなになるってのはなかなか骨が折れる仕事だ。

なにはともあれ自己嫌悪が一番くさいからな。

そりゃあもうキョーレツだからな。

早いとこね。

おねがいね。

流してね。

 

さあ 今日も元気よく水に流そうじゃないか。

トイレのだんなはそう言って笑った。