「いのりの詩(うた)」 僕につけるくすり詩(うた) すぎむらとものり

いのりの詩(うた)

すぎむらとものり

春に住むボクのことを

冬に住むボクがわらう。

そんなうす着ではこまるだろう。

もっと自分を守るものが必要だと。

 

春に住むボクのことを

冬に住むボクがきらう。

このきびしい時代に剣も持たずに

いったいなにができるのかと。

同じ場所で出会ったのに

ボクらはちがう景色を見ていた。

 

春に住むボクはチョウを見ていた。

いろとりどりにほほえむ

花を見ていた。

やわらかな風がはなをくすぐり

白いTシャツの日だまりには

人生はよろこびだと書かれていた。

 

冬に住むボクは強い北風のなかで

ふりつづく雪を見ていた。

よろいのような服をひきずり

人生はくるしみだと思った。

戦わなくては生きられなかった。

守らなければ生きられなかった。

あとでこまらないように

うばえるだけのすべてを

なわばりのなかに

ひきずりこもうとボクは思った。

 

やわらかい春のうたは

冬に住むボクの手前で

ことごとく凍りついて

バラバラにこわれた。

 

かなしくて かなしくて

春に住むボクは天を見上げた。

つめたくされる理由が

わからなくて

なんども夜空に問いかけて

ようやく届いたひとつの答え。

 

ただ季節がちがった。

同じ場所にいるのに

見ている景色がちがった。

それぞれの季節にふさわしい

正しさのなかで

だれもが傷つきながら

学んでいたんだ。

 

春に住むボクのことを

冬に住むボクがわらう。

それは仕方のないこと。

心ない言葉には

やっぱり傷つくけれど

もう うつむくのはやめよう。

理解することを

あきらめなかった

それだけでじゅうぶんなんだ。

春に住むボクは顔を上げた。

 

自分の力では

どうすることもできない

きびしい季節に打ちのめされて

ボクらはほんとうの

あたたかさに気付いてゆく。

春に住む者たちは

それぞれの冬に

なんども倒れた者たちだ。

 

春に住むボクは

冬に住むボクにいのる。

キミはいつかのボクだよと。

春に住むボクは

冬に住むボクにいのる。

春はいつかのキミだよと。

重い武器を捨てたとき

風は止み 雪は溶け

うつくしい花が咲くのだと。

 

いのる。

いのる。

いのることはできる。

わらわれても

ばかにされても

いのることはできる。

 

冬に住むボクたちが

冬に敗れたそのときに

時をこえていのりは届く。

寒さに凍えるその胸を

時をこえて確かに照らす。

 

あきらめない。

太陽だ。

未来の世界をあたためる

いのりは見えない太陽だ。

 

いのる。

いのる。

今は気付いてもらえなくても。

いのる。

いのる。

冬に住む すべてのボクにむけて。

 

いのる。

いのる。

春に住む 冬におびえるボクたちにむけて。

いのる。

いのる。

ともにいのることはできるよと。

 

目をとじて

手をあわす。

あたまが光で満ちてゆく。

 

― おそれることはなにもない。―

 

いのる。

いのる。

たくさんの花が咲いてゆく。

時をこえ

春はもうそこにある。

 

いのる。

いのる。

たとえ目には見えなくても

かならず届く

いのりの詩(うた)。