「踏み切りの花」 僕につけるくすり詩(うた) すぎむらとものり

踏み切りの花

すぎむらとものり

いつもうるさい踏み切りの下に

文句も言わずに咲く花を見た。

電車が通るたびに倒れても

ただ受け入れてゆく花を見た。

 

なぜそんな場所を

わざわざ選んで生まれたんだい。

もっとマシな場所は

いくらでもあるだろうに。

そう聞く僕を花は黙って見ていた。

踏み切りが鳴る。

電車が通る。

やっぱり花は受け入れてゆく。

 

住む場所や環境を

変えられない花が

僕よりも自由に見えるのは

花の心が自由だからだ。

どこにだって行ける足よりも

どこにも逃げださない根を選んだ

強い強いたましいだからだ。

 

過去ばかり見ずに

未来ばかり見ずに

上ばかり見ずに

下ばかり見ずに

その時起きることを

ただ黙って受け入れてゆく。

 

理不尽な横風に

折れ曲がっているくせに。

油かなにかをかけられて

うす汚れているくせに

きみはなんて美しいのだろう。

 

権利ばかり主張する

うるさくなった僕の胸に

きみは静かに笑った

踏み切りの花。