「ハートのチャイム」 僕につけるくすり詩(うた) すぎむらとものり

ハートのチャイム

すぎむらとものり

ハートはマルとちがうんだ。

あたりまえのことだけど

ボクはそれを忘れていた。

とがって まがって へっこんで

いろいろあってのそのかたち。

 

けずりすぎたら いたかった。

まるめすぎたら くるしくかった。

正しさだけではせますぎたんだ。

 

胸のいたみは合図だった。

かすかなチャイムの音だった。

ボクがきらった いろんなボクが

どうやら外にいるらしい。

 

ドアをあけるとキミがいた。

ごめんなさいと泣いている。

ちいさなボクがそこにいた。

ペンキをいっぱいかぶりながら

キミはボクを呼んでいたんだ。

 

ボクが過去を悔やむたび

キミはつめたいペンキをかぶった。

もっとよごれてつらくなれば

少しは許されるだろうかと。

 

ごめんね。ごめんね。

 

こんなによごれるまでキミを

追いつめたのはボクなんだ。

ボクのかわりにつまずいて

ボクのかわりに泣いたのに

ボクがいちばんキミを責めた。

キミのおかげで学べたのに

なんどもなんどもキミを責めた。

 

ごめんね。ごめんね。

つめたくしたのはボクなんだ。

あやまるのはボクのほう。

 

よごれたボクらの体を

仲直りの涙が

どこまでも どこまでも

やさしく流れてゆくよ。

ああ こんな涙もあるのか。

この涙はあたたかい。

 

つらいだけのさよならも

いたいだけのあやまちも

むだに思えたすべてのボクが

今、輝きながら胸に帰る。

 

いろんなボクを抱きしめて

いろんな過去と手をつなぎ

ちぢんだハートはひろがるよ。

 

自分に対するやさしさが

ボクの胸に満ちるまで

まだ胸はいたむらしい。

だけどもうこわくない。

キミが呼ぶ合図なら。

 

ハートのチャイム ひびいたよ。

これは祝福のチャイムだよ。

いつだってボクがキミをむかえにゆくからね。

 

ハートはマルとちがうんだ。

ハートはマルとちがうんだ。

とがって まがって へっこんで

いろいろあっても手をつなぐ。

だからとてもあたたかい。

ハートはハートのままがいい。